
「エンジニアの正社員採用を続けているが、なかなか良い人材に出会えない」と頭を抱えている採用担当者の方も多いのではないでしょうか。
エンジニア採用市場では求人倍率が高水準で推移しており、正社員採用はますます難しくなっています。そのような状況のなかで、本業を持ちながら業務委託で副業として働くエンジニアへの注目が高まっています。副業エンジニアは転職市場には現れない層であるため、競争率が低く、コストも抑えやすいという特性があります。
この記事では、副業エンジニアを業務委託で採用することを検討している企業向けに、基本的な知識から具体的なアプローチ方法、契約上の注意点までを体系的に解説します。読み終える頃には、次に取るべき一歩が明確になっているはずです。
- 1、業務委託と副業エンジニアの基本を整理する
- (1)業務委託契約とは何か―雇用との違い
- (2)副業エンジニアとはどんな人か
- (3)副業エンジニアが増えている背景
- 2、副業エンジニアを業務委託で採用するメリット
- (1)正社員採用より競争率が低い
- (2)必要な期間・量だけ柔軟に依頼できる
- (3)実務を通じて相性を確認できる
- 3、副業エンジニアを業務委託で採用するデメリットと注意点
- (1)稼働時間・稼働量が限られる
- (2)コミュニケーションコストと業務管理の工夫が必要になる
- (3)偽装請負にならない契約設計
- 4、副業エンジニアへの効果的なアプローチ方法
- (1)求めるスキルと稼働条件を言語化する
- (2)スカウトで直接アプローチする
- (3)面談で稼働イメージをすり合わせる
- 5、まとめ:副業エンジニアという「倍率の低い戦場」を選ぶ意味
1、業務委託と副業エンジニアの基本を整理する

副業エンジニアを採用するにあたって、まず「業務委託契約とは何か」「副業エンジニアとはどういう人たちか」という前提を整理しておく必要があります。ここを曖昧にしたまま進めると、後述する偽装請負などのリスクを招く可能性があります。
(1)業務委託契約とは何か―雇用との違い
業務委託契約とは、企業が外部の個人や法人に対して特定の業務を委託し、その成果や役務に対して報酬を支払う契約形態です。業務委託契約は大きく3種類に分類されます。
請負契約:成果物の完成を約束し、納品に対して報酬が発生する。成果物に不備がある場合は契約不適合責任を負う
委任契約:法律行為(契約締結の代理等)を委託する契約。弁護士・司法書士等が典型例
準委任契約:法律行為以外の業務遂行を委託する契約。エンジニアへの業務委託の大半はこの形態にあたる
エンジニアの業務委託では準委任契約が最も多く用いられます。3種類いずれの場合も、雇用契約とは根本的に性質が異なる点が重要です。雇用契約では企業が従業員の労働時間・作業内容・勤務場所を管理する権限を持ちますが、業務委託契約では「いつ・どこで・どのように作業するか」を直接指示することは原則としてできません。
ただし、準委任契約のなかでも「成果完成型」(2020年民法改正で明文化)については、一定の成果に対して報酬が発生する設計になるため、業務の性質や契約内容によって実態は様々です。いずれの形態でも指揮命令関係は原則として生じないという点が、雇用契約との本質的な違いです。
この原則を理解しておくことが、後述する偽装請負リスクを避けるうえで重要です。
項目 | 雇用契約(正社員) | 業務委託契約 |
|---|---|---|
指揮命令 | あり(時間・場所・方法を指示可) | なし(成果・役務の範囲のみ委託) |
労働基準法の適用 | あり | なし |
社会保険 | 企業が折半負担 | 個人が全額負担 |
契約期間 | 無期(または有期) | 期間を定めて更新 |
採用コスト(費用) | 採用時コストに加え、社会保険・賞与等の固定費が継続的に発生 | プロジェクト単位の変動費型。稼働量に応じてコストを調整しやすい |
契約解除 | 正当な理由が必要 | 契約条件により比較的柔軟 |
(2)副業エンジニアとはどんな人か
副業エンジニアとは、別の企業で正社員として働きながら、空き時間を活用して業務委託の形で案件を受けるエンジニアを指します。週1〜3日程度の稼働が現実的なラインであり、フルタイムのフリーランスエンジニアとは稼働量が異なります。
副業エンジニアの特徴として挙げられるのは、本業で得たスキルをそのまま活かせる仕事を求めている点です。本業でバックエンド開発に携わっているエンジニアであれば、副業案件でも同様の技術スタックを使った開発を求めることが多い傾向にあります。
また、副収入だけでなく、新しい技術の経験やキャリアの幅出しを目的として副業を始める方も多く見られます。企業側から見れば、高いモチベーションを持った即戦力の専門家と短期間で協働できる可能性があります。
(3)副業エンジニアが増えている背景
近年、副業エンジニアが増えている背景には、いくつかの社会的変化があります。
一つ目は、テレワークの普及です。通勤時間がなくなり、1日の時間の使い方に余裕が生まれたことで、副業として取り組める時間を確保しやすくなりました。
二つ目は、企業の副業解禁の流れです。厚生労働省が2018年に副業・兼業の促進に関するガイドラインを策定・改定(*1)して以来、副業を許可する企業が増えており、エンジニアが副業に踏み出しやすい環境が整っています。
三つ目は、フリーランス保護に関わる法制度の整備です。2024年11月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が施行され、業務委託での仕事を選びやすい環境が整いつつあります(*2)。こうした環境変化が、副業エンジニアという働き方の広がりを後押ししています。
*1 参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」2022年7月改定
*2 参考:政府広報オンライン「フリーランスが安心して働ける環境づくりのための法律、2024年11月からスタート!」2026年1月
2、副業エンジニアを業務委託で採用するメリット
副業エンジニアを業務委託で採用することには、正社員採用やフリーランス専業への依頼とは異なる固有のメリットがあります。自社の採用課題に照らしながら確認してみてください。
(1)正社員採用より競争率が低い
ITエンジニアの採用市場では、情報処理・通信技術者の有効求人倍率が全職業平均を大きく上回る水準で推移しており(*3)、多くの企業が同じ土俵で競い合っています。正社員採用の場合、大手・ベンチャーを問わず全ての企業が同じ転職市場で候補者を奪い合うため、知名度や待遇面で劣る企業にとっては厳しい状況が続いています。
*3 参考: 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)令和6年度分」2025年5月
一方、副業エンジニアは転職活動をしているわけではないため、転職市場には登場しません。副業エンジニアが案件を探す市場は、正社員採用の市場とは別の場所に存在しています。つまり、副業エンジニアへのアプローチは「競争率の低い戦場を選ぶ」ことを意味します。
正社員採用がうまくいかない原因の一つに、「競争の激しい市場で戦っていること自体」があるケースは少なくありません。採用戦略の選択肢として、副業エンジニアという層をあらためて検討する価値があります。
(2)必要な期間・量だけ柔軟に依頼できる
正社員採用では、一度採用すると固定費として継続的な人件費(社会保険・賞与・退職金等)が発生します。また、プロジェクトの規模に関わらず、雇用を維持するコストがかかり続けます。
業務委託であれば、「3ヶ月間、週2日だけAPIの設計を手伝ってほしい」といった柔軟な依頼ができます。人件費が変動費になるため、事業フェーズやプロジェクト規模に合わせてコストをコントロールしやすい点は大きな利点です。
特に、以下のような場面での活用が現場でも多く見られます。
特定の技術領域の専門家が一時的に必要な場面(新機能開発・技術移行等)
採用活動が完了するまでの補完的な開発リソースとして
新規プロダクトのMVP(最小限の製品)開発フェーズで社内に実績がない技術を使う場合
(3)実務を通じて相性を確認できる
正社員採用では、書類選考・面接数回という限られた接点でミスマッチを防がなければなりません。実際に働いてみると「思っていたスキルと違った」「チームの文化と合わなかった」というケースが起きやすいのも、この接点の少なさに起因しています。
業務委託は、実務を通じて相性を確かめながら関係を深められる点が異なります。副業エンジニアとして業務委託で働いてもらいながら、将来的に本業として一緒に取り組んでいけるかをお互いに確かめていくこともできます。関係構築の流れを段階的に設計することで、双方にとって納得感のある選択が生まれやすくなります。

3、副業エンジニアを業務委託で採用するデメリットと注意点
メリットだけに目を向けると、実際に活用し始めてから想定外の課題に直面することがあります。副業エンジニアとの業務委託に特有のデメリットと注意点を整理します。
(1)稼働時間・稼働量が限られる
副業エンジニアの最大の特性は、稼働時間が限られているという点です。本業がある以上、週1〜3日程度が現実的な稼働量であり、正社員やフルタイムのフリーランスエンジニアと同じ期待をかけることは難しいです。
向いている案件と向いていない案件を事前に把握しておくことが重要です。
向いている案件 | 向いていない案件 |
|---|---|
特定機能の開発・設計(スコープが明確) | フルタイムのコミットが必要な主要開発 |
コードレビュー・技術アドバイザリー | 緊急対応が頻発するプロダクト運用 |
特定技術領域のスポット支援 | 常時接続・即時レスポンスが求められる業務 |
週次のMTGを軸とした設計補助 | 社内チームとの密な連携が不可欠な案件 |
依頼する業務の範囲・スコープを事前に明確化しておくことが、副業エンジニアとの協働をうまく機能させる鍵となります。
(2)コミュニケーションコストと業務管理の工夫が必要になる
副業エンジニアは稼働日数が限られるため、社内の正社員と同じ感覚でコミュニケーションを取ろうとすると、認識のずれや情報共有の遅れが生じやすくなります。週1〜2日しか稼働しない場合、前回の作業からの文脈を毎回引き継ぐ必要があり、結果として社内側の調整・確認コストが想定以上にかかるケースがあります。
こうしたコストを抑えるためには、以下のような工夫が有効です。
作業の背景・目的・完了条件を都度テキストで明示する
非同期でも進められるよう、タスクの粒度を小さく切り出す
週次MTGや非同期の進捗確認の仕組みをあらかじめ設計しておく
稼働時間が短い分、「伝える・確認する」設計を丁寧に行うことが、副業エンジニアとの協働をスムーズにする鍵になります。
(3)偽装請負にならない契約設計
業務委託契約で最も注意が必要なのが「偽装請負」です。業務委託という名称を使っていても、実態が雇用に近い管理・指示命令を行っている場合、労働者派遣法違反(偽装請負)とみなされるリスクがあります。
偽装請負は企業側に法的リスクをもたらします。具体的には、悪意のある場合に1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります(労働者派遣法第59条)。
以下に、偽装請負と判断されやすいNG行動と、適切な業務委託の在り方を整理します。
NG行動(偽装請負リスクあり) | 適切な対応 |
|---|---|
「今日中にこのタスクを進めてください」と直接指示する | 成果物・役務の範囲を契約で定め、進め方はエンジニアに委ねる |
始業・終業時間を管理する | 稼働量(時間・日数)を契約で合意し、時間管理は自律に委ねる |
チームのSlackやツール上で、社員と同様に作業指示・進捗管理を行う | 連絡・確認の範囲にとどめ、作業の進め方はエンジニアの裁量に委ねる |
社内の就業規則を業務委託先にも適用する | 業務委託契約の内容で取り決めを行う |
「委託した業務の成果に対して報酬を支払う」という原則を徹底することが、適法な業務委託を維持するうえで最も重要なポイントです。

4、副業エンジニアへの効果的なアプローチ方法
メリット・デメリットを理解したうえで実際にアプローチを始める段階では、いくつかの具体的な準備が成否を分けます。
(1)求めるスキルと稼働条件を言語化する
副業エンジニアへの依頼で失敗しやすいのは、「どんな人でもいいのでエンジニアを探してほしい」という曖昧な条件からスタートするケースです。副業エンジニアは自分の空き時間を使って働くため、案件の条件が合わないと感じた時点で選考を辞退するスピードが速い傾向があります。
案件票(ポジション票)には以下の項目を明記することを推奨します。
業務内容:何を作るか、どんな技術スタックを使うか
稼働条件:週何日・何時間程度か、リモートOKか
期間:いつからいつまでの予定か(更新の可能性も記載)
コミュニケーション方法:週次MTGの有無・使用ツール(Slack等)
本業との兼業を前提とした配慮:急なリリース対応の頻度・稼働時間の柔軟性
特に「本業との兼業を前提としている」と明記することは、応募者の安心感につながります。
(2)スカウトで直接アプローチする
副業エンジニアの多くは、求人サイトへの応募を積極的に行うよりも、スカウト経由で案件を受けるスタイルを好む傾向があります。これは、本業が忙しいなかで能動的に転職・副業活動をする時間を取りにくいことが一因です。
スカウト文で意識すべきポイントは3つあります。
個別性:プロフィールや過去の実績を読んだうえで、「あなたのこの経験が、このプロジェクトで活きる」と具体的に伝える
情報解像度:プロジェクトの背景・フェーズ・使用技術・チーム構成を詳しく開示し、相手が判断できる情報量を提供する
キャリアへの貢献:副業を通じてどんなスキルや経験が積めるかを示す。単に「困っています」ではなく、「この案件でこういった経験ができる」という視点で

(3)面談で稼働イメージをすり合わせる
スカウトを経て面談に進んだ際、通常の採用面接と同じ進め方をすると副業特有の確認漏れが生じることがあります。以下のポイントを面談で必ず確認しておくことを推奨します。
稼働可能な曜日・時間帯(本業の繁忙期・残業が多い時期はあるか)
連絡可能な時間帯(返信は深夜になることがあるか等)
本業先での副業申請の状況(申請済みか・申請予定か)
守秘義務・競業避止義務の範囲(本業先との重複案件はないか)
稼働開始可能な時期(本業の繁忙期と重ならないか)
これらを丁寧に確認することで、契約後の認識ずれを事前に防ぐことができます。副業エンジニアの方も同様の懸念を持っていることが多いため、こうした確認姿勢はむしろ信頼感の醸成につながります。
単価・費用感については「エンジニア業務委託の単価相場と適正設定の考え方」も併せてご覧ください。
5、まとめ:副業エンジニアという「倍率の低い戦場」を選ぶ意味
エンジニア採用に行き詰まりを感じている企業の多くは、正社員採用という一つの市場だけで戦い続けています。しかし、採用の本質は「自社のプロジェクトを前進させてくれる専門家と出会うこと」であり、正社員採用はその手段の一つに過ぎません。
副業エンジニアを業務委託で迎えることは、競争率の低い市場でスキルある専門家と出会う可能性を広げる選択肢の一つです。稼働時間が限られるため、すべての課題を解決するわけではありませんが、スコープを明確にした案件や短期プロジェクトでは高い効果が見込めます。
大切なのは、「副業エンジニアを採用する」という発想の転換だけでなく、彼らに対して一人の専門家として誠実に向き合う姿勢です。就業規則の確認を促し、偽装請負にならない契約を設計し、スカウト文に個別性を持たせる。こうした一つひとつの積み重ねが、副業エンジニアとの信頼関係を生み出します。
自社のプロジェクトを前進させてくれるエンジニアとの出会いが、採用戦略の選択肢を広げることで生まれやすくなれば幸いです。
この記事を書いた人
re:shine編集部
エンジニアと企業のより良いマッチングを目指し、採用成功に役立つ多彩なテーマを発信しています。深刻な人材不足や働き方の多様化など、変化の激しいエンジニア採用市場において、採用担当者の皆様に寄り添い、明日から活用できる情報をお届けします。
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